代表理事の挨拶

代表理事 日本看護学教育評価機構は、2018年10月15日、設立者である一般社団法人日本看護系大学協議会(JANPU)から3千万円の拠出を受け、一般財団法人として発足した。
 本機構の目的は、「日本の大学における看護学教育の質を保証するために、看護学教育プログラムの公正かつ適正な評価等を行い、教育研究活動の充実と向上を図ることを通して、国民の保健医療福祉に貢献すること」(定款第3条)である。
 発足年である2018年度の報告書作成にあたり、改めて機構設置に至った背景を高等教育の動向、医療専門職教育分野の取り組み、看護学教育の高等教育化、JANPUの種々の取り組みの歴史から確認しておきたい。

 法制化により大学の機関別評価は義務化され、2004年からすべての大学が7年に1回以上、第三者認証機関を受審し認証評価を受けるようになった。機関別評価の認証を受けることは基本であるという認識は広く大学間に共有されてきた。しかし、教育の質を保証するには、機関別評価だけでは十分ではないことが間を置かず指摘されるようになった。教育プログラムに焦点をおく評価、分野別評価の重要性が確認されてきたのである。
 2008年中央教育審議会答申において、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受け入れの方針の3方針(3P)の明確化という主たる柱に加えて、分野別質保証に向けた枠組み作りが挙げられた。日本学術会議はこの審議依頼に応えて、2010年「大学教育の分野別質保証の在り方について」を提出し、これを受けて各学問分野は「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」を公表してきた。
 医療専門職教育の分野では分野別評価への取り組みは、比較的早くから行われており、その理由や必然性は異なるものの、それぞれ施行評価を経て薬学教育では2013年、医学教育では2017年から本評価を開始している。また、専門職大学院における教育を始めたことに伴い、助産学分野でも2008年から評価機構を設置し、評価を開始している。
 JANPUにおける検討は他分野に比べても早期から行われており、2002年海外の情報収集及び評価基準の検討が開始され、2007年~11年には文部科学省委託事業を受け、3回にわたり8校の試行評価を実施している。JANPUが分野別評価に着目した背景には、看護学の急速な高等教育化がある。1992年「看護師等の人材確保の促進に関する法律」施行を契機に11校時代が続いていた看護系大学は、急速に数を増し2019年4月現在、274大学、287課程(省庁大学校2校、2課程を含む)を数えるに至っている。二十数年間に25倍になるという驚異的な数字である。これは、喜ぶべきことであると同時に、教員の不足や流動化を招くなどの危機感をもたらした。学ぶ学生たちも一握りの選ばれた学生ではなくなり、1学年定員の増加と相まっていわば大衆化してきた感がある。もうひとつの背景要因は、大学における看護学教育の位置づけの多様さである。看護学教育プログラムは、単科大学、学部、学科、さらには専攻といったさまざまなレベル、位置づけで設置され行われている。これは、同じ医療専門職教育でも医学や薬学にはない看護学独特の状況である。この複雑さは意思決定や権限、教員の数・配置など、看護学教育のいろいろな面に影響を及ぼしている。機関別評価においてどの程度看護学教育の内容が取り上げられるか、実質的評価を受けられるかもこの位置づけによって大きく異なる。単科大学では看護学教育プログラムの評価が受けられる実感があるが、総合大学の学科以下の位置づけでは自己点検評価の段階からしばしば関与が限定される。分野別評価が待たれる大きな理由である。看護学教育プログラムの実施主体の多様さ、複雑さは分野別評価の受け入れに対する温度差を生み出している。
 このような温度差があるなかでも、JANPUにおける検討や試行評価の報告会等を経て徐々に分野別評価の意義や内容について理解が進み、2015年JANPU総会において機構の設置と3000万円の拠出が承認され、設立準備委員会を経て、2018年10月設立に至ったのは冒頭述べたとおりである。折しも、看護学教育の質保証にかかわる指針が次々に公表されていた。まず、日本学術会議から「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準(看護学分野)が2017年9月に次いで文部科学省大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会から「看護学教育モデル・コア・カリキュラム~『学士課程においてコアとなる看護実践能力』の修得を目指した学修目標」が同年10月に公表された。翌年にあたる2018年6月JANPUは「看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーと卒業時到達目標」を7年ぶりに改定し公表した。各大学はこれらをカリキュラム編成に際して参考資料として活用することができ、またそれが期待されている。
 日本の3大学に1校、看護学教育プログラムをもつ大学があり、卒業生の数も2万人を超え看護学士が新卒看護師の半数を占めるようになるのもそう遠いことではない時代を迎えている。看護系大学には国民の健康や福祉に貢献する看護専門職の人材育成を担う責務がある。それだけではなく大学教育としての魅力が備わっているかも求められよう。学生が知の発見や創造に加わっている実感をもてる(菱沼:看護学教育カリキュラム、その制度の理解について、JANPU 看護学士課程教育の質を高めるカリキュラム開発に関する研修会、2017)大学あるいはその教育プログラムを目指して、分野別評価を質保証の機会として積極的に活用する機運を高めていきたい。

本機構は小さな1歩を踏み出したばかりであるが、理事監事、委員会委員、職員、みな等しく、力強い歩みに変えていく意気込みを共有している。引き続き支援をいただいている出資者であるJANPUの方々への感謝を述べて終えることにしたい。

代表理事 高田早苗