学校教育法において大学の機関別評価が義務化され、2004年からすべての大学が7年に1回以上、第三者認証機関を受審し認証評価を受けるようになった。機関別評価の認証を受けることは基本であるという認識は広く大学間に共有されてきた。しかし、教育の質を保証するには、機関別評価だけでは十分ではないことが間を置かず指摘されるようになった。教育プログラムに焦点をおく分野別評価の重要性が認識されてきたのである。
2008年中央教育審議会答申において、学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)、教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)、入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)の3方針(3P)の明確化という主たる柱に加えて、分野別質保証に向けた枠組み作りが挙げられた。日本学術会議は2010年「大学教育の分野別質保証の在り方について」を提出し、これを受けて各学問分野は「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」を公表してきた。
医療専門職教育の分野では、分野別評価への取り組みが比較的早くから行われており、その理由や必然性は異なるものの試行期間を経て、薬学教育では一般社団法人薬学教育評価機構により2013年から、医学教育では一般社団法人医学教育評価機構により2017年から分野別評価を開始している。また、助産学分野では、専門職大学院において専門分野の教育に関して5年以内ごとの認証評価が必須であることから、一般財団法人日本助産評価機構を設置し、2008年から専門職大学院の評価を開始している。
日本看護系大学協議会(JANPU)が分野別評価に着目した背景には、上記の流れに加えて、2つの要因があった。一つは看護学の急速な高等教育化である。1992年「看護師等の人材確保の促進に関する法律」施行を契機に11校時代が続いていた看護系大学は、急速に数を増し毎年10校程度の学部・学科の新設が続き、2018年5月現在JANPU加盟課程数は277課程となっていた。二十数年間に25倍になるという驚異的な数字である。学士課程の増加は大学院研究科の増加につながり、看護学の発展、看護実践の質の向上に資する教育研究の推進へと看護系大学は進化し続けている。これは、喜ぶべきことであると同時に、教員の不足や流動化を招き、教育の質低下につながりかねないという危機感をもたらした。また総体として1学年の定員が増加し、看護学学士教育も他と同様に大衆化に向かうことになった。
もうひとつの背景要因は、大学における看護学教育の位置づけの多様さである。看護学教育プログラムは、単科大学、学部、学科、さらには専攻といったさまざまなレベル、位置づけで設置され行われている。これは、同じ医療専門職教育でも医学や薬学にはない看護学独特の状況である。この位置づけは意思決定や権限、教員の数・配置など、看護学教育のいろいろな面に影響を及ぼしている。
また機関別評価においてどの程度看護学教育の内容が取り上げられるか、実質的評価を受けられるかも、この位置づけによって大きく異なる。単科大学では看護学教育プログラムの評価が受けられる実感があるが、総合大学の学科以下の位置づけでは自己点検評価の段階からしばしば関与が限定される。したがって、実質評価する仕組みがない看護学教育プログラムが多数あることも課題であった。
看護系大学の健全な発展、進化は、高齢社会の進展等に伴い変化する人びとのヘルスケアニーズに応えうる人材の輩出や看護研究成果を確実なものにするうえで不可欠と考え、JANPUは看護学教育の分野別評価を重要課題として位置づけ、常設委員会を設けるなどして評価の実施に向け取り組んだ。
同協議会の取り組みは海外の情報収集や評価基準等の検討に着手した2002年から始まった。同協議会は文部科学省の委託事業助成を受け、2007年~2011年の間に3回にわたり8校の試行評価を実施し、分野別評価の意義や重要性を確認し、評価基準や仕組みについて検討を重ねた。
これらの結果をもとに、2015年6月、同協議会総会において、日本看護学教育評価機構(仮)設置及び設置準備資金として積み立ててきた3千万円の充当が承認され、2016年7月日本看護学教育評価機構(仮)設立準備委員会が発足した。
日本看護学教育評価機構は、2018年10月15日、設立者である一般社団法人日本看護系大学協議会から3千万円の拠出を受け、一般財団法人として発足した。
本機構の目的は、「日本の大学における看護学教育の質を保証するために、看護学教育プログラムの公正かつ適正な評価等を行い、教育研究活動の充実と向上を図ることを通して、国民の保健医療福祉に貢献すること」(定款第3条)である。
折しも、看護学教育の質保証にかかわる指針が次々に公表されていた。まず、日本学術会議から「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準(看護学分野)」が2017年9月に、次いで文部科学省大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会から「看護学教育モデル・コア・カリキュラム~『学士課程においてコアとなる看護実践能力』の修得を目指した学修目標」が同年10月に公表された。2018年6月JANPUは「看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーと卒業時到達目標」を7年ぶりに改定し公表した。各大学がカリキュラム編成に際して参考資料として活用できる資料が本機構発足時に出揃っていたことは、分野別評価が時流にあったものと言えるだろう。
日本の3大学に1校、看護学教育プログラムをもつ大学があり、卒業生の数も2万人を超え看護学士が新卒看護師の半数を占めるようになるのもそう遠いことではない時代を迎えている。看護系大学には国民の健康や福祉に貢献する看護専門職の人材育成を担う責務がある。それだけではなく大学教育としての魅力が備わっているかも求められよう。学生が知の発見や創造に加わっている実感をもてる(菱沼:看護学教育カリキュラム、その制度の理解について、JANPU 看護学士課程教育の質を高めるカリキュラム開発に関する研修会、2017)大学あるいはその教育プログラムを目指して、分野別評価を質保証の機会として積極的に活用する機運を高めていきたい。
2018年10月15日 | 一般財団法人日本看護学教育評価機構(JABNE)設立 ・初代代表理事(理事長)に高田早苗が就任 ・受審希望校の募集開始 |
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2018年11月5日 | 設立記念講演会(於:日本赤十字看護大学 広尾ホール) |
2019年3月23日 | 説明会(於:一橋大学 一橋講堂) |
2019年7月19日 | 第1回受審校説明会(於:株式会社島津理化東京支店 会議室) |
2019年9月14・21・28日 | 2019年度評価員基礎研修(札幌・東京・名古屋・神戸・福岡) |
2020年3月14日 | 2019年度評価員審査前チーム研修(於:株式会社島津理化東京支店 会議室) |
2020年3月28日 | 第2回受審校説明会(WEB) |
2020年 | 4校の評価を実施(新型コロナウイルス感染症の蔓延によりWEBでの実施となった) |
2020年9月26日 | 2020年度評価員基礎研修(WEB) |
2021年3月6日 | 2020年度評価員審査前チーム研修(WEB) |
2021年3月27日 | 説明会「看護学教育分野別評価の重要性と必要性」(WEB) |
2021年 | 6校の評価を実施(WEB) |
2021年4月20日 | 第3回受審校説明会(WEB) |
2021年9月25日 | 2021年度評価員基礎研修(WEB) |
2022年3月8日 | 2021年度評価員審査前チーム研修(WEB) |
2022年3月27日 | 説明会「看護学分野別評価への期待と初年度受審を通して得たもの」(WEB) |
2022年 | 11校の評価を実施(WEB) |
2022年4月18日 | 第4回受審校説明会(WEB) |
2022年9月21日 | 2022年度評価員基礎研修(WEB) |
2022年11月20日 | JANPU事務局から移転 東京都千代田区内神田2丁目 大沢ビル4階 |
2023年3月28日 | 2022年度評価員審査前チーム研修(WEB) |
2023年 | 5校の評価を実施(訪問) |
2023年4月25日 | 第5回受審校説明会(WEB) |
2023年8月22日 | 第1回JABNE研修交流集会(WEB) |
2023年9月19日 | 2023年度評価員基礎研修(WEB) |
2024年3月26日 | 2023年度評価員審査前チーム研修(WEB) |
2024年 | 12校の評価を実施(訪問) |
2024年4月25日 | 第6回受審校説明会(WEB) |
2024年6月14日 | 2代代表理事(理事長)に菱沼典子が就任 |
会員校数 | 受審校数 | 認定課程 累計 |
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2018年度 | 76 | ― | ― |
2019年度 | 103 | ― | ― |
2020年度 | 118 | 4 | 4 |
2021年度 | 124 | 6 | 10 |
2022年度 | 129 | 11 | 20 |
2023年度 | 139 | 5 | 25 |
2024年度 | 145(暫定値) | 12 |